今年が第2回目の吉阪隆正賞。
坂口恭平君が受賞した。
35才の元気な、しかしちょっと危ない若者だ。

2年に一度の吉阪隆正賞、第1回目の一昨年は、田中 泯氏に与えられた。
いわゆる賞というものは第1回目の受賞者が重要。それが誰かによってその性格や品位などが決まってしまうことが多い。第1回の受賞者が大物の泯さんとあっては、そのあとの第2回目は困るだろうな、と、思っていたのだけれど。
いい人が受賞したと思う。
ぼくは、ちょっとうれしい。

早稲田大学建築学科を卒業した、坂口恭平君。
卒論でいわゆる路上生活者のブルーシートハウスや彼らの生活を調査する。一軒一軒訪ね歩き、じっくりと話しを聞き、時には酒を酌み交わしながら彼らの話しに耳を傾ける。
ホームレスにはホームがある。
一般に、ホームレスとよばれる人たちは、社会に適応することができなくて、職を失い、人間関係を失い、貧困の果てに住むところも無くし、致し方なく路上生活者となる。そして最も惨めな生活を強いられている、と思われている。
ところがその後、彼らは先輩ホームレスのコミュニティーに助けられ生活を立て直す。その新たな生活は、一般人の二流品といったものとは異なり、むしろ自立し創意工夫にあふれている。あくせく忙しくすることもなく自由で豊かな文化を築いていると。

ブルーシートで覆われた彼らの家は、気候風土や土地(場所)の状況に適応し、住みやすく清潔なきちんとした住まいであることが解る。
それらの家は、充分に計画され工夫を重ねて作られてきたため、機能的である。最小限の大きさであるけれど暮らすのには充分の広さがあり、分解可能であり、モビリティに優れ、居住性もなかなかなもの。
多くの家は電化されていて、テレビ、ラジカセなども楽しめる。多くの電化製品が12ボルトであるのでガソリンスタンドから貰い受けた自動車のバッテリーで賄うことができる。秋葉原で1万円弱で手に入る40センチ角のソーラーパネルで、ゼロエネルギーを実現してしまう家もある。
一般の家庭も100ボルトから12ボルトに変えると、劇的に電力使用量が減りそうだなあ。とっても参考になるね。

しかも、その材料はすべて捨て去られたゴミから再利用されて組み立てられたものだ。
「都市では1円もかけずに暮らすことができる」
住まいの総工費0円。生活費0円。
健康的に良く体を動かし、よく考え頭を働かせ、素朴に質素に暮らしていると。
その生活は、「都市型狩猟採集生活」なのだと。
初源的で、未来的なんだ。

坂口恭平は、貨幣至上主義の現代資本主義社会を嘆き、土地私有制に疑問を持ち、仕事の極端な分業制により労働が全人格的な意義を失い、単なる作業の連続に陥っていることを嘆く。
建築や家づくりといった、本来生きることと同義語であるはずの、総合的ないとなみが失われた現代社会を嘆く。
いいぞいいぞ、若者はやっぱりこういうふうに嘆かなくてはと、密かに喝采を送る。

彼は、成長の過程で影響を受けたものを列挙している。
ボブ・ディラン、ジャック・ケルアックの「オン・ザ・ロード」、ソローの「森の生活」、「方丈記」、「ホール・アース・カタログ」、ルドルフスキーの「アーキテクチャア・ウィズアウト・アーキテクト」、バックミンスター・フラー、今和次郎の「考現学」、猪谷六合雄(くにお)、などなど。
このへんもいいよね。
さあこれからは大変だろうけれど、今の調子で、等価交換しない生き方を、
楽しく元気にやって欲しいな。

著書
写真集「0円ハウス」
「TOKYO 0円ハウス 0円生活」
「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」

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